手塚治虫先生は医師免許を持つ漫画家だった

漫画の神様・手塚治虫先生。私は物心ついた頃には自宅にあった父の『火の鳥』の黎明編や復活編を読んでいました。

幼い子供ゆえストーリーはよく分かりませんでしたが、いくつかのシーンが強烈に印象に残りました。小学生になると藤子不二雄先生の『まんが道』でさらに興味を持ち、『火の鳥』『ブラック・ジャック』に夢中になりました。


『ブラック・ジャック』は無免許医師が主人公の医療漫画ですが、毎回20ページぐらいの話に濃いドラマがぎっしりと詰め込まれており、医療漫画の最高峰だと思っています。





『ブラック・ジャック』が連載開始されたのは1973年、なんと53年も昔の話なんです。こんな昔に手塚先生は医療漫画を完成させてしまいました。

手塚先生は医師免許をお持ちでした。大阪帝国大学附属医学専門部(現在の大阪大学に先の大戦中、軍医を養成するために設置されていた医学専門学校)を卒業なさっています。

『ブラック・ジャック』の前に手塚先生は医学界の闇を描いた『きりひと賛歌』という漫画もお描きになっていますが、こちらは大阪大学医学部附属病院がモデルなのだそうです。



糖尿病はブラック・ジャックには登場しない!

ブラック・ジャックは(無免許の)外科医です。作中には架空の病気も含めていろいろな病気が登場しますが、じつは私の持病である『糖尿病』は登場しません。

閉ざされた三人』では酸素を節約するために大量のインスリンを注射して仮死状態にするシーンがありましたが、注射された男性は糖尿病ではない健康な男性だったようです。

満月病』に出てきたクッシング症候群は、副腎皮質刺激ホルモンを過剰に分泌する腫瘍ができて肥満・真ん丸な顔・血糖値上昇などの症状が現れる病気です(下の画像はイラストAC)。



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作中ではブラック・ジャックが患者の腫瘍を手術で取り除き、病気の症状がすっきり改善していました。はっきり語られていませんが手術前の患者は血糖値が高かったのかもしれませんね。

これは二次的な糖尿病(他の病気が原因で糖尿病状態になっている)ですが、そうではない普通(?)の糖尿病患者は登場しません。糖尿病は現段階では一般的に外科的に治療するものではないからでしょう。

ぶっちゃけ、外科系も産婦人科も一部小児科もすべて手塚先生が素晴らしい作品を描いてしまっているので、手塚先生がお描きにならなかった「糖尿病内科」だけが私に残された道だと思い糖尿病内科の漫画を描こうと思ったんです。


あっ皮膚外科の読み切り漫画は描きましたけど、「皮膚外科」がわりと新しい分類なのかなと思って…皮膚科とも形成外科ともちょっと違った皮膚外科に興味を持ち、もっと知られてほしいなと思ったのでそっちは描きました。

王道の人間ドラマ医療漫画で勝負しようと言われた

私は42歳で漫画家になりたいと思って43歳の時少年画報社とcomicoの合同漫画コンテストで猫漫画がいちばん下の賞にひっかかって担当編集者付きになりました。

担当さんは若い男の子で、まだ漫画家を担当したことは1度もない方でした。そのため漫画アプリ「マンガDX+」の編集長さんがサブ担当者ということで入ってくださいました。

その編集長さんから「アプリで医療漫画を連載できる方を探していた。今は医療漫画は奇をてらったものが多いが、王道の人間ドラマに立ち返った作品で勝負してみよう」と言われて描くことになったのが『糖尿病専門医 甘栗ミカコのカルテ』とその続きにあたる『ケットウ!~糖尿病内科医・甘栗美咲~』でした。


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『甘栗ミカコ』の時は私の漫画家としての技術があまりにも未熟だったので単話の電子書籍しか出ていませんが『ケットウ!』は紙の単行本を出してもらえることになりました。

単行本が出る直前に担当編集者さんが私とは関係ない理由で他の部署に異動になったりしましたけど、無事に第1巻を出すことが出来ました。

ところがまさかの漫画アプリのサービス終了に伴い、ケットウ!も連載終了することに…ものすごく売れていればよそに移籍する方法もあったのかと思いますけど、新人漫画家と新人編集者のコンビでは力及ばずで残念ながら💦

糖尿病内科医たちが他の診療科の医師から「糖尿病内科って地味過ぎるからテレビドラマにもならないよね(笑)」と言われて悔しかったという話は何度も聞きました。つまり糖尿病内科はどうしても地味になりがちな題材ってことですよね。


どの診療科も患者にとっては大事です!

医療漫画や医療ドラマになりやすいのは圧倒的に外科系です。やはり手術シーンがあったり人の生死にかかわる派手なシーンが描きやすいからでしょう。

産婦人科や小児科、精神科も人気がありますよね。しかし糖尿病内科はちっとも映像化されませんよね。そもそも糖尿病の医療漫画もあんまりなかったのではありませんか?やっぱり「地味」だからですかね。

仮にそうだとしても、私はどうしても描きたかったんです。決して「糖尿病内科なんて誰がやっても同じ」ではないと思います。

外科は「神の手を持つスーパードクターが手術して奇跡的に完治」みたいな感じになりやすいと思うんですけど、糖尿病はそうではなく、基本的に一生治療を続けなければいけない病気です。






ずっと治療を継続しなければいけない病気だからこそ、医師の人間性、医師と患者の信頼関係、そういったことが大事になるのではないでしょうか。

「前の先生には心を開けなかったけど、今の先生になら話せた。そして救われた」というような話は現実でも聞いたことがありますし、私自身も患者として実感しております。

『ケットウ!』の第1巻を出す前に編集長さんから「この漫画はバズるようなテーマではないから、最初から爆発的に売れることはないでしょう。しかしそれは最初から想定済で、5年とか10年とかゆっくり時間をかけて売っていきましょう」と言われていたんです。

ところがその後、社長さんが代わり、いろいろなことがガラリと変わったのでしょうか?「以前と同じようなやり方が出来なくなった、申し訳ない」ということになり、アプリもサービス終了になって連載が終わってしまったんです。単行本はなんとか第2巻まで紙で出せました。





商業的にはバカ売れするテーマではないかもしれないけど、糖尿病または糖尿病予備軍の日本人はとても多いです。若い方はあまりピンと来ないかもしれないけど、現在の日本には一千万人の糖尿病患者と一千万人の糖尿病予備軍が居ると言われています。

糖尿病は決して甘く見ていい病気ではなく、進行すれば失明や腎不全、四肢の切断、脳や心臓の病気のリスク増加などとても怖い病気です。

誰もが他人事とは思わず、ほんの少し(出来れば病気になる前に)気を付けてくださるといいなと思います。そしてあなたの周囲にも必ず糖尿病を持つ人がいます、もしかしたら内緒にしているから気付いていないかもしれませんけど。

多くの方が無関係ではない「糖尿病」という病気。そんな糖尿病をめぐるドラマを、私はこれからもずっと描いていきたいと思います。どの診療科も患者にとってはとても大切なのですから。



DS



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